2014年 11月 18日
瀬尾まいこ『卵の緒』『優しい音楽』 |
本棚から懐かしい本をひっぱりだしてはページをめくっている。私は本の好みにとても偏りがあって、もともと日本人作家(ほとんどが女性)の小説ばかり読んできた。そして、手当たり次第いろいろなものを読むというよりは、好みの書き手を見つけたらその著作をすべて読んで、特に気に入ったものを繰り返し楽しみたいほう。そうやって好きになった作家たちの本が、家の本棚にはずらりと並べてある。
ソウルには、その一部しか持っていけなかったので(ソウルにまで連れて行ったのは、村上春樹、よしもとばなな、田辺聖子、保坂和志、内田樹、美輪明弘あたり)、日本に戻って、久しぶりに再会するような気持ちで手にとったのが、瀬尾まいこの小説。彼女はたしか『図書館の神様』というタイトルに惹かれて読み始めたのがきっかけで、ソウルに行く前に出された作品はすべて読んでいると思う。
『優しい音楽』のあとがきに瀬尾まいこの魅力をびしっと表現している文芸評論家の文章があったので、さすがプロだけあって的確だわ、と感心しつつ、その一部を引用してみたいと思う。
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瀬尾まいこは、『卵の緒』のあとがきで、「そこら中にはいろんな関係が転がっていて、誰かと繋がる機会が度々ある。それは幸せなことだ」と述べているけれど、繋がる機会も幸せも多様であるし、こと小説に関していうなら、それを感得させることじたい至難だろう。しかし瀬尾まいこはやすやすとやってのける。さまざまな価値観を持つ人間同士が出会い、繋がりあい(とくに瀬尾文学では美味しいものを食べあうことで関係が深まる)、あらたな関係を築いていく。その微妙で複雑は人間界の襞を、瀬尾まいこは、やわらかい会話を駆使して生き生きとのぞかせ、不思議なぬくもりを抱かせるのである。複雑な価値観を、とても優しい手触りで、温かく幸福なものとして描き出すのである。
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私は小説の醍醐味は、あくまでも個人的であることだと思っているのだけど、なかでも、知らず知らずのうちにとらわれがちになる既成概念を、しなやかかつかろやかに、超えていくような小説が特に好き。瀬尾まいこでいうと、『卵の緒』では父親の愛人の息子である腹違いの弟と暮らすことになった姉、『優しい音楽』では亡くなった兄に生き写しの自分に近寄ってきた妹と付き合うことになった僕、『タイムラグ』では不倫相手の娘を泊まりで預かることになった私、と「常識」からはなかなか考えにくい人間関係について、描いている。しかも、ちっとも深刻だったりどろどろとしているわけではなく、あくまでやわらかく、温かく。既成概念や常識なんて、いつか誰かが誰かの都合のために作り出した概念だったりするのに、私自身は、そういうものに強い規制を受けてしまうことが多くて、そうして頭がかちこちになりそうなときにこういう小説を読むと、そのかちこちが、とても心地よく、ほぐれていくような感覚を覚える。
昼間に帰国報告を書いたときは、なんだかへとへとで、泣き出したいような気持ちだったけれど、瀬尾まいこの小説を読んでいたら、気力がむくりむくりと湧いてきたような。
ソウルには、その一部しか持っていけなかったので(ソウルにまで連れて行ったのは、村上春樹、よしもとばなな、田辺聖子、保坂和志、内田樹、美輪明弘あたり)、日本に戻って、久しぶりに再会するような気持ちで手にとったのが、瀬尾まいこの小説。彼女はたしか『図書館の神様』というタイトルに惹かれて読み始めたのがきっかけで、ソウルに行く前に出された作品はすべて読んでいると思う。
『優しい音楽』のあとがきに瀬尾まいこの魅力をびしっと表現している文芸評論家の文章があったので、さすがプロだけあって的確だわ、と感心しつつ、その一部を引用してみたいと思う。
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瀬尾まいこは、『卵の緒』のあとがきで、「そこら中にはいろんな関係が転がっていて、誰かと繋がる機会が度々ある。それは幸せなことだ」と述べているけれど、繋がる機会も幸せも多様であるし、こと小説に関していうなら、それを感得させることじたい至難だろう。しかし瀬尾まいこはやすやすとやってのける。さまざまな価値観を持つ人間同士が出会い、繋がりあい(とくに瀬尾文学では美味しいものを食べあうことで関係が深まる)、あらたな関係を築いていく。その微妙で複雑は人間界の襞を、瀬尾まいこは、やわらかい会話を駆使して生き生きとのぞかせ、不思議なぬくもりを抱かせるのである。複雑な価値観を、とても優しい手触りで、温かく幸福なものとして描き出すのである。
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私は小説の醍醐味は、あくまでも個人的であることだと思っているのだけど、なかでも、知らず知らずのうちにとらわれがちになる既成概念を、しなやかかつかろやかに、超えていくような小説が特に好き。瀬尾まいこでいうと、『卵の緒』では父親の愛人の息子である腹違いの弟と暮らすことになった姉、『優しい音楽』では亡くなった兄に生き写しの自分に近寄ってきた妹と付き合うことになった僕、『タイムラグ』では不倫相手の娘を泊まりで預かることになった私、と「常識」からはなかなか考えにくい人間関係について、描いている。しかも、ちっとも深刻だったりどろどろとしているわけではなく、あくまでやわらかく、温かく。既成概念や常識なんて、いつか誰かが誰かの都合のために作り出した概念だったりするのに、私自身は、そういうものに強い規制を受けてしまうことが多くて、そうして頭がかちこちになりそうなときにこういう小説を読むと、そのかちこちが、とても心地よく、ほぐれていくような感覚を覚える。
昼間に帰国報告を書いたときは、なんだかへとへとで、泣き出したいような気持ちだったけれど、瀬尾まいこの小説を読んでいたら、気力がむくりむくりと湧いてきたような。
by moriyumi0721
| 2014-11-18 00:02
| 本